くすぐりの歴史と文化
くすぐりは単なる笑いのきっかけではなく、人類史・行動科学・神経科学にまたがる多面的なテーマです。
進化的には哺乳類、特に類人猿やラットにも共通する社会的遊戯として位置づけられ、
古代におけるくすぐり
古代ギリシャの哲学者プラトンは『フィレボス』の中で、
ローマ帝国では、足裏に塩水を塗りヤギの舌で舐めさせる山羊刑が私刑・尋問に用いられ、
こうした一方で、宴席や宮廷では友情や親密さのジェスチャーとして軽いくすぐりが流行し、
中世から近世へ
中世ヨーロッパではスペイン異端審問や都市刑務所で羽根・毛筆を用いた足裏くすぐりが
「血を流さない尋問法」として採用された記録があります。 修道院の戒律罰としてもtickle benchが図版に残り、
日本でも江戸期の藩法に「くすぐり責め(くすぐりぜめ)」の条項が存在し、
近代以降とメディアにおける描写
19世紀、チャールズ・ダーウィンは『人及び動物の感情表現』で
くすぐり笑いを進化的に保存された防衛的反射と位置づけ、
映画誕生後はチャップリンやキートンの無声映画で
くすぐりがドタバタ喜劇の定番に。 『モダン・タイムス』(1936)では機械の歯車にはまり身動きできない主人公を
工員が羽根でくすぐる場面が有名です。 戦後はテレビのバラエティ番組が罰ゲームとして採用し、笑いの記号として大衆化しました。
医学・福祉分野では1995年にインドの医師マダン・カタリアがラフターヨガを創始し、意図的笑いの一部としてくすぐりを導入。 世界70ヵ国超のクラブで認知症ケアやストレス軽減に活用されています。
現代のくすぐりフェチ文化
パソコン通信時代の1990年代、米国でTerri "Tickle" DiSistoが若者向けビデオを販売し、
年次イベントNEST(NorthEast Spot of Ticklers)には世界中の愛好家が集います。
2016年公開のドキュメンタリー映画『Tickled』は、
オンライン動画ビジネスの裏側と搾取構造を暴露し、
くすぐり研究の最前線
神経科学ではラットを用いた実験で、
くすぐり時の高周波「笑い声」とソマトセンソリー皮質の活動が同期することが判明。 これにより社会的遊びと情動処理の神経基盤が解明されつつあります。
fMRI研究では、自分で自分をくすぐれない理由として
小脳が予測信号を送って感覚野の応答を抑制するメカニズムが支持されました。 近年はボノボにも人間同様のくすぐり遊びが確認され、
ヒト科共通の社会的絆形成行動である可能性が示唆されています。
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