くすぐりの歴史と文化

くすぐりは単なる笑いのきっかけではなく、人類史・行動科学・神経科学にまたがる多面的なテーマです。
進化的には哺乳類、特に類人猿やラットにも共通する社会的遊戯として位置づけられ、歴史的には愛着形成から拷問まで幅広い場面で活用されてきました。

古代におけるくすぐり

古代ギリシャの哲学者プラトンは『フィレボス』の中で、くすぐりによって生じる快楽を身体的刺激と精神的快感が交差する典型として論じています。 弟子のアリストテレスも『動物誌』で「くすぐりは皮膚を通じ魂に届く反射運動」と記述し、感覚と情動の結び付きを早くから示唆しました。

ローマ帝国では、足裏に塩水を塗りヤギの舌で舐めさせる山羊刑が私刑・尋問に用いられ、紀元前後の文献や修道士グィベールの『モノディエ』などに記録が残ります。 同様の方法は漢代中国でも羊刑として伝聞され、痛痕を残さず長時間苦痛を与える技法として恐れられました。

こうした一方で、宴席や宮廷では友情や親密さのジェスチャーとして軽いくすぐりが流行し、壁画や壺絵にダンサー同士が戯れ合う姿も描かれています。

中世から近世へ

中世ヨーロッパではスペイン異端審問や都市刑務所で羽根・毛筆を用いた足裏くすぐりが
「血を流さない尋問法」として採用された記録があります。 修道院の戒律罰としてもtickle benchが図版に残り、受刑者が笑いながら悲鳴を上げる両義的な様子が当時の挿絵に描写されています。

日本でも江戸期の藩法に「くすぐり責め(くすぐりぜめ)」の条項が存在し、商家の奉公人や罪人に対し股裂き台の代替として使われた事例が『甲府勤番留記』にみられます。 一方、農村では親子くすぐりが愛着儀礼として行われ、「赤子は百日くすぐりで福を呼ぶ」といった民間信仰も残ります。

近代以降とメディアにおける描写

19世紀、チャールズ・ダーウィンは『人及び動物の感情表現』で
くすぐり笑いを進化的に保存された防衛的反射と位置づけ、哺乳類に共通の社会信号であることを示しました。

映画誕生後はチャップリンやキートンの無声映画で
くすぐりがドタバタ喜劇の定番に。 『モダン・タイムス』(1936)では機械の歯車にはまり身動きできない主人公を
工員が羽根でくすぐる場面が有名です。 戦後はテレビのバラエティ番組が罰ゲームとして採用し、笑いの記号として大衆化しました。

医学・福祉分野では1995年にインドの医師マダン・カタリアがラフターヨガを創始し、意図的笑いの一部としてくすぐりを導入。 世界70ヵ国超のクラブで認知症ケアやストレス軽減に活用されています。

現代のくすぐりフェチ文化

パソコン通信時代の1990年代、米国でTerri "Tickle" DiSistoが若者向けビデオを販売し、訴訟沙汰で注目を浴びました。 その後、掲示板やFetLife、Tickling Media Forum などでコミュニティが拡大、
年次イベントNEST(NorthEast Spot of Ticklers)には世界中の愛好家が集います。

2016年公開のドキュメンタリー映画『Tickled』は、
オンライン動画ビジネスの裏側と搾取構造を暴露し、くすぐりフェチ産業が抱える倫理問題を世に知らしめました。

くすぐり研究の最前線

神経科学ではラットを用いた実験で、
くすぐり時の高周波「笑い声」とソマトセンソリー皮質の活動が同期することが判明。 これにより社会的遊びと情動処理の神経基盤が解明されつつあります。

fMRI研究では、自分で自分をくすぐれない理由として
小脳が予測信号を送って感覚野の応答を抑制するメカニズムが支持されました。 近年はボノボにも人間同様のくすぐり遊びが確認され、
ヒト科共通の社会的絆形成行動である可能性が示唆されています。

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